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時代の

受講生レポート

講演タイトル
「アジアの架け橋 LOVE & PEACH」


講演日 2012/10/26 (金)
講師 井上 慎一 ( いのうえ しんいち )
Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO


2012年は、ピーチの就航を契機に、計3社のLCCが日本での就航を開始したことから「LCC元年」と呼ばれています。日本人にとってはまだなじみが薄いLCCですが、井上氏によれば、LCCは1970年代に既に誕生していたのだそうです。その先駆けは、米国の「サウスウエスト航空」(1971年6月就航開始)。LCCはまず米国で広がり、その後1990年代にヨーロッパ、2000年代には東南アジア・オセアニアへと拡大していきました。2005年以降は、南米やインド、中東にもLCCが登場しているそうです。したがって、今年になってようやくLCCが登場した日本は、LCCにおいては後進国なのです。

LCC(Low Cost Carrier)とは、正確に訳すと「低コストの航空会社」であり、利用者に安い運賃を提供することを目的としています。現在、テレビや新聞などマスコミで、「格安航空会社」と表現されていることについて、井上氏はとても残念な思いをしているそうです。「格安」という言葉には、「安かろう、悪かろう」というイメージを与えてしまう危惧があるからです。実際には、成功しているLCCは、定時出発率、就航率などの「品質」の良し悪しを示す指標において、既存の航空会社に負けない、あるいは上回る、高い信頼性を維持しているのです。

LCCの「品質」について、井上氏は具体的な数字を示してくれました。ヨーロッパのLCC大手A社(当レポートでは社名は伏せます)の「定時出発率」は90%です。一方、ヨーロッパの既存の大手航空会社は、B社85%、C社83%です。また、「就航率」もA社は99.6%と非常に高く、既存大手各社の就航率を上回っています。すなわち、A社について言えば、大手航空会社以上に確実に運行され、かつ時間通りに出発しているのです。また、手荷物事故発生率は低いほど優れているわけですが、A社はわずか0.6%であるのに対し、既存大手各社は10%以上と大きな差があります。他のLCCもおおむね、大手航空会社に引けをとらない品質を維持しており、LCCは決して「安かろう、悪かろう」ではないのです。

このように、航空運賃が安くて、かつ品質も高いLCCは利用者の支持を集めることに成功し、既存の航空会社と並んで、数多くの旅客を運んでいます。実のところ、国際線国内線ともに搭乗旅客数実績では、LCCが既存航空会社を抑えて1位です。ただし、LCCは、既存航空会社の顧客を奪っているわけではありません。むしろ、新たな需要を生み出しています。LCC誕生以降の搭乗旅客数の推移を見ると、既存航空会社の搭乗旅客数は減っておらず、LCCの搭乗旅客数が上乗せされた形になっています。すなわち、LCCは、航空市場全体の規模を拡大することに貢献しているのです。
井上氏によれば、これまでは航空運賃が高すぎて利用できなかった人々、あるいは鉄道、バスなど他の輸送手段から切り替える人々がLCCの顧客になっているそうです。また、出張などビジネス目的では既存航空会社を利用し、家族旅行などプライベートではLCCを利用するといったように、利用者は上手に使い分けているのだそうです。既存航空会社である全日空が、自らLCC事業に乗り出した背景には、利用客のカニバリゼーション(共食い)は起きないという判断があったのです。

前述したように、LCCは、単に利益を削って運賃を下げているのではなく、文字通り徹底した効率化によって低コスト運営を実現することで安い運賃を実現しています。そして、効率化のためには、実は高い品質を達成しなければならないのです。なぜなら、LCCは、限られた機材(機体)を高頻度で飛ばすことで1回あたりの航行コストを下げる必要があるからだと井上氏は指摘します。

たとえば、ピーチの[関西-福岡線]は現在、同じ機材を使って1日3便飛んでいます。目的地に着いたら迅速に機内の清掃や給油を済ませ、予定通りに折り返さなければなりません。1便でも出発が遅れるとその後のスケジュールに影響し、最終便が空港の門限(滑走路の使用時間、福岡空港は22時)に間に合わず飛べないという事態も起こりえます。そのため、ピーチに限らず、LCCではチェックインの時間の厳守を利用者にお願いしているのだそうです。
もし、既存航空会社のように、遅れた人を待つような柔軟な対応をしていると、運行スケジュールが狂い、機材の効率運用ができなくなります。それはコストの上昇につながり、安い運賃が提示できなくなってしまうのです。ピーチが今年3月に就航した当初、こうした厳密な運用については不満を寄せる利用者もいらしたそうですが、最近では「だから安いんだね」と理解してもらえるようになってきたということです。

利用する機材は、エアバスの新造機をリース導入し、比較的短期間で更新します。常に新しい機材を飛ばすことで故障が起きにくくなり、安全性が格段に高まります。しかも、機材の種類を統一することで整備が効率化でき、運用コストを下げることができるのだそうです。整備については、全日空の支援も有償で受けています。運賃が安くても、安全性にも決して妥協していないと井上氏は強調していました。

ピーチでは、機材の効率運用以外に、既存航空会社とは異なるサービスモデルを採用しています。運賃は、基本料金に別途オプションをつけるアラカルトタイプの運賃と、オプションがセットになったバリュータイプの運賃の2タイプのみとシンプルです。そして、予約したら即時決済が必要です。欠航・遅延の場合を除いて払い戻し(キャンセル)もできません。LCCは、既存航空会社とは違う乗り物であり、いわば「空飛ぶ電車(と同じ仕組み)」と考えられます。

ピーチの機内のシートにはビジネス、エコノミーといったクラス分けはなく、座席指定はオプションで有料です。機内で提供される飲食物も有料。手荷物を預ける場合は、1個から別料金が発生します。荷物を預けてもらえば収益増の機会となる一方、預かる荷物が少なくなれば、到着地での荷物の積み下ろしが早く完了します。既存航空会社は、こうしたサービスをほとんど無料として提供してきたことから「フルサービスキャリア」とも呼ばれているそうですが、LCCでは、様々なサービスを切り離し、基本サービスの運賃を引き下げ、利用者の状況に応じてサービスを追加利用できる自由度の高さを提供しているのです。

もちろん、ピーチ本社のオフィスもローコストに徹しています。テーブルや椅子など備品は、全日空で不要になったものを譲り受けたり、オークションで安く入手しています。節電はもちろん、ペーパレス化を実施し、社内資料は紙に印刷せず、パソコン画面で閲覧するだけです。同社の名刺にはFAX番号が記載されていないそうですが、これは、FAX用インク・用紙を節約するためだそうです。

効率の追求と、信頼性や安全性の高さだけではありません。ターゲットの女性を意識した、品を感じさせる機内のデザインと色使いを施し、革張りのシートを採用。また、客室乗務員はじめ、利用者と接する地上スタッフの接客サービスの品質にも気を配っています。ピーチの従業員が共有する価値観は、「元気あふれる日本らしい品のあるサービス」や高いクリンリネス(清潔さ)、関西のユーモアなど。実際に、関西生まれの客室乗務員は、関西弁による機内アナウンスを実施しているそうです。井上氏は、LCC事業立ち上げ準備期間に、世界のLCCを研究したそうですが、成功しているLCCは、スタッフが皆楽しそうに働いていることに気づいたのです。そこで、ピーチでもビジョンのひとつとして〔A great place to work〕という言葉を掲げ、ピーチを取り巻くすべての人々とのHappyな関係構築を目指しているそうです。

2012年3月に運行開始してからこれまでのところ、ピーチの就航率は99%を達成。定時運行率も89%と高い定時制を維持しているとのこと。搭乗者数は9月末の時点で、国内線で50万人、国際線は8.2万人を突破し、年内に100万人に到達する見込みだそうです。

10月28日には、関西国際空港にLCC専用ターミナルが供用開始されており、「低コスト」と「利用者の利便性」の両方が実現することから、さらに積極的な路線展開を図っていくと井上氏。

LCC成功のポイントは、「コストマネージメント」と「ホスピタリティ」であり、ホスピタリティの高さは、日本人のDNAだと考える井上氏が率いるピーチ・アビエーションは、欧米LCCとは異なる、日本独自のLCCの確立に成功するに違いないと感じさせるお話でした。
 

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